09.*偽悪*

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「……えっ、あたしは別に…。 一ミリもそんな要素ないです」 「どの口が言うんだろうね、そんなこと」 パッと抱き締めていた腕を飯島くんが離して、あたしの両頬を片手で掴む。 むにっ、と歪んだ口を見られたくなくて、顔を俯かせてパッと飯島くんから身を引いた。 「……そう、いい子。 男に迫られたら、ちゃんと距離を取るんだよ。朝比奈さん」 ポンッとあたしの頭を撫でて、飯島くんがあたしの横を通りすぎる。 それを振り返りながら、 「保健室、そっちじゃないですよっ」 と去っていく背中に叫んだ。 だけど、飯島くんは振り返らずにそのまま右手を上げてヒラヒラと振ると、 「今、俺朝比奈さんと保健室行けるほど心身共に余裕じゃないから」 と言って、廊下の角の向こうに消えてしまった。
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