09.*偽悪*

21/40
前へ
/675ページ
次へ
心の中で思ったことに対して、最低だな。と冷静なあたしが毒を吐く。 自分が好きだからって、他人の不幸まで願っちゃいけない。 分かってる。 ……でも。 「……ごめんね」 飯島くんが落ち着いた声で、言ったのが聞こえた。 動揺なんか見せないのは、きっと慣れてる所為。 あたしもこんな風なただの告白の中の一つなんだろうな、と思うと落ち込んだ。 情緒不安定もいいとこだ。 「……あ、の。 好きな人、とかいるんですか…?」 「……うん、いる」 「……そう、ですか…」 勇気を出した女の子の声は震えていた。 前にも同じような会話を聞いたな、と思い返す。 ふと、さっきまでずっと黙っていた愛咲ちゃんがひそひそ声であたしに聞いてきた。 「カイ…ってさ、好きな人、いんの?」 「え……あ、うん……。たぶん」 「へぇ。意外だね」 顎に右手を添えて、愛咲ちゃんがドアのガラス張りの部分から保健室を覗き込む。 そして、「ふーん」ともう一度頷いた。 「……ただの、女好きだと思ってたけど。 それだったら、今の告白断ったりしないよね」 「……え?」 思わず、愛咲ちゃんを振り返る。 けど、愛咲ちゃんはあたしになんか目もくれず、飯島くんに強い視線を向けたままだった。
/675ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2485人が本棚に入れています
本棚に追加