09.*偽悪*

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「……まぁ、そんな予感はしてたけど。 さっきから、あんた全然動かないから」 「………」 返す言葉もない。 こういうとこ気が回るというか、頼りになるというか……、 あたしが情けないというか。 飯島くんは、手早く氷を入れたビニール袋に少量の水を入れて、入り口を縛った。 キュッ、と蛇口を閉める音が響く。 飯島くんはそのままツカツカとあたしのもとに歩いて来て、 「……冷たっ!」 容赦なくあたしの鼻の頭に氷水を乗せた。 「ほら、我慢して。 ちゃんと冷やすの。 今日、2回目だって分かってる?」 「わ、分かってます…、けど……! 冷たっ……!」 「動くなってば。 世話がやけるね、ホントに」 あたしの顎を掴んで少し上を向けさせたまま、飯島くんが顔を氷で冷やす。 冷たかったけど、ちょっと助かった。 熱くなる頬が、バレなくて済むから。
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