09.*偽悪*

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「何言ってんの? あんた。 てか、何言ってるか分かってる?」 「……うん」 飯島くんの唖然とした態度とは裏腹に、ちょっとしおらしく頷く愛咲ちゃん。 それに飯島くんは面食らったように額を押さえて、はー、とため息を吐き出した。 「……何? 俺に惚れたってこと?」 「………っ!」 直球……っ! あまりにどストレートな言葉に驚いて、飯島くんを見上げる。 すると、飯島くんも余裕がなさそうな困惑した面持ちを全面に出していた。 ……さっきの女の子とは違うんだな、とこんなとこで感じた。 適当にあしらうわけでもない。 告白されて、驚いて、その子のこと一生懸命考えるただの男の子みたいな……。 「分かんないの」 ハッキリとした声で愛咲ちゃんが、飯島くんの言葉に返事を返した。 「惚れたとか、そういう気持ち、あたし知らないし。 それにね? 今まで嫌いだったし。 だけど、なんかここ来てから、あんた女好きって感じじゃないし、優しいし。 そういうの見たら、なんか胸がキュッとなって。 けど、なんか風花ちゃんに優しいのが苦しくて……」 「俺が悪かった。 ごめん、もういい」 もはや、ほとんど告白のような台詞。 それに飯島くんはため息を吐いて、とベッドにボスン、と座った。 そのままゆっくりと体を横に倒す。 あたしは何とも言えない、もやもやとした息を止めそうな苦しさに襲われていた。 単純にイヤだと思った。 そんな困惑した、甘い目を飯島くんにしてほしくなかった。 飄々としていてほしかった。 バカだけど、一瞬でも愛咲ちゃんで頭を満たして欲しくなかった。
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