09.*偽悪*

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「……けいなコト、言うなって言ったよね」 保健室を背もたれにしたからだろうか。 ふと飯島くんの声が聞こえて、耳を欹(そばだ)てる。 落ち着いた飯島くんの声とは対称的に、今度はもっと大きな声で愛咲ちゃんの不服そうな声が聞こえた。 「だって本当のことだし。」 「……本当でも言うな。 朝比奈さんの前なんだから」 「そういうとこが甘いんだってば。 なんか弱みでも握られてるわけ?」 「そうだね。 最大の弱み握られてるよ」 はぁ、と今日何回聞いたか分からない飯島くんのため息。 弱みなんてあたし、何にも握ってないんだけどな。 またよく理解しがたい会話が耳に飛び込んでくる。 けど、きっとこれはあたしが耳を欹ててはいけないことだと思うから、息をひそめて何も言わないことにした。 会話はさらに続く。 「そんなことより、俺はあんたの方にビックリしてるんだけど」 「え?」 「俺を好きってさ、まさか本気じゃないよね?」 「………」 「あんたは俺が嫌いだから、婚約を解消するために、この学校に来たんだと思ってたんだけど」 ……婚約? 初耳なそのワードに思わず何も見えない保健室のドアを振り返った。
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