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「……けいなコト、言うなって言ったよね」
保健室を背もたれにしたからだろうか。
ふと飯島くんの声が聞こえて、耳を欹(そばだ)てる。
落ち着いた飯島くんの声とは対称的に、今度はもっと大きな声で愛咲ちゃんの不服そうな声が聞こえた。
「だって本当のことだし。」
「……本当でも言うな。
朝比奈さんの前なんだから」
「そういうとこが甘いんだってば。
なんか弱みでも握られてるわけ?」
「そうだね。
最大の弱み握られてるよ」
はぁ、と今日何回聞いたか分からない飯島くんのため息。
弱みなんてあたし、何にも握ってないんだけどな。
またよく理解しがたい会話が耳に飛び込んでくる。
けど、きっとこれはあたしが耳を欹ててはいけないことだと思うから、息をひそめて何も言わないことにした。
会話はさらに続く。
「そんなことより、俺はあんたの方にビックリしてるんだけど」
「え?」
「俺を好きってさ、まさか本気じゃないよね?」
「………」
「あんたは俺が嫌いだから、婚約を解消するために、この学校に来たんだと思ってたんだけど」
……婚約?
初耳なそのワードに思わず何も見えない保健室のドアを振り返った。
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