09.*偽悪*

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"婚約"なんて、そんな聞き慣れない単語。 飯島くんと愛咲ちゃんの間柄で何で出てくるんだろう。 嫌な予感で胸がいっぱいになるのに、それでも保健室のドアの傍からは離れられなかった。 「……なんだ、そこまで知ってたんだ」 ふぅ、となんだかガッカリした声を発する愛咲ちゃん。 それに比べて飯島くんの声は冷めていた。 「そりゃあね。 顔合わせた時から俺のことがキライなオーラすげぇ出てたし。」 「そりゃあ、出すでしょう! あたし、最初に親に紹介された時『営業の女好き』って言われたんだよ!? 誤解しないヒトがどこの世界にいるっていうのよ!」 「だから、あながち間違っているとは言えないよ。それ。 嘘じゃないから」 「………」 ポンポン、と飛び交っていた会話がふいにやむ。 そして沈黙の後、 「…女好き、だけは嘘でしょ」 と、さっきよりずっと弱々しい声で愛咲ちゃんが反論した。
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