09.*偽悪*

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「……え?」 ふざけてた、愛咲ちゃんの口調がその冗談交じりの色をなくす。 呆然としたような声。 だけど飯島くんはそれに続けてハッキリと言った。 「俺は、例え一生その子と結ばれなくても、彼女以外は好きにならない」 「………」 「十代にして早すぎる決断? でもね、彼女以外に落ちる気がしないんだよ、とても」 へぇ、と愛咲ちゃんは相づちを打ったけど、その声は震えていた。 そしてハハ…、と乾いた笑みだけ零して、愛咲ちゃんは震えた声のまま続けた。 「じゃ、じゃあ…さ。 あたしが、カイとの婚約を解消しなかったら……?」 「……」 ドクンッ、と愛咲ちゃんの言葉に心臓が大きく鳴った。 目の前の視界が真っ暗になる。 『カイとの婚約』……? それって…、何。  どういう……。 「変わらないよ」 飯島くんがハッキリと言い切る声が、真っ暗になる頭の中で確かに一瞬輝いた。 「いつか未来。 俺がどんなヒトと結婚しても、彼女が誰を見ていても。 彼女が俺の存在を忘れる日が来ても。 俺の心は彼女以外、誰にも奪えない」
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