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「……っ」
愛咲ちゃんが息を飲んだのが、空気の震えで伝わった。
胸の内を絞られるような感覚が身体に伝わる。
何かよく分からない空気の塊みたいなものが迫り上がってきて、あたしの息を止めようとする。
はぁっ、と息をはき出すのも精一杯だった。
……あたしにこんな感情を教えてくれるのは、きっと後にも先にも飯島くんだけだ。
愛咲ちゃんも、あたしと同じ感覚を感じたのだろう。
はーっ、と深呼吸をするような音が聞こえた。
それを合図にするかのように飯島くんが口を開く。
「…こんなの、今だけの恋愛感情だって思うかも知れないけど、俺は育ってきた環境が他の男よりも過酷な所為で、欲しい物を手に入れた経験がないんだよね。」
「……う、ん…」
愛咲ちゃんは何とか返事をしているという感じだった。
声が掠れている。
飯島くんは、そんな様子に気づいてないのか、気づかないふりをしているのか分からないけれど、構わず続けた。
「それどころか、大事な物を奪われた経験しかない。
だから、いつも守りに入る。
どうやったら奪われないか、どうしたら傷つかないかって無意識にそこに焦点が行く」
一呼吸飯島くんが置いた後、ガタンと椅子が揺れたような音がした。
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