09.*偽悪*

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「俺はリスクは背負いたくない主義なんだ。 二兎を追う者は一兎をも得ずって言うでしょ。 贅沢はしない。」 「……」 「ごめん、話長いね」 飯島くんはそこで重苦しい空気を消すように一言おいた。 そこで初めて愛咲ちゃんが口を開く。 「……つまり、どういう、こと…?」 ほんの一瞬、沈黙が流れた。 愛咲ちゃんの声にいつもみたいな明るい色はもうない。 「…つまり、さ。 婚約の話はあんたに任せるけど、俺はあんたを好きにはならないってこと」 「……、それは、あたしが婚約を承諾してもいいってこと…?」 「……まぁ、そうだね。 こんなんでもよければだけど」 「……本気で言ってるの?」 「言ってるよ。 俺はもう正直言って、俺に対しての執着なんかない」 投げやりのような飯島くんの言葉。 見ていなくても、あの少し視線を落とした目が思い浮かぶ。 見えない、表情。 陰だけ帯びた瞳。 自分を嫌いだと言う、あたしの大好きな人。 声だけで、こんなにも表情が鮮明に思い浮かぶ、大事な人。
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