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「俺はリスクは背負いたくない主義なんだ。
二兎を追う者は一兎をも得ずって言うでしょ。
贅沢はしない。」
「……」
「ごめん、話長いね」
飯島くんはそこで重苦しい空気を消すように一言おいた。
そこで初めて愛咲ちゃんが口を開く。
「……つまり、どういう、こと…?」
ほんの一瞬、沈黙が流れた。
愛咲ちゃんの声にいつもみたいな明るい色はもうない。
「…つまり、さ。
婚約の話はあんたに任せるけど、俺はあんたを好きにはならないってこと」
「……、それは、あたしが婚約を承諾してもいいってこと…?」
「……まぁ、そうだね。
こんなんでもよければだけど」
「……本気で言ってるの?」
「言ってるよ。
俺はもう正直言って、俺に対しての執着なんかない」
投げやりのような飯島くんの言葉。
見ていなくても、あの少し視線を落とした目が思い浮かぶ。
見えない、表情。
陰だけ帯びた瞳。
自分を嫌いだと言う、あたしの大好きな人。
声だけで、こんなにも表情が鮮明に思い浮かぶ、大事な人。
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