09.*偽悪*

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じわっと目頭が熱くなった。 ここで膝を抱えて泣くことしかできない自分が情けない。 伝えられない。 こんなに大事な人はこの世のどこを探してもいないのに。 好きな人をそこまで大事に出来る飯島くんがこんなに好きなのに。 飯島くんを好きっていう確実な証。 早く探して渡したいのに、見つからない。 婚約なんてしないで、飯島くん。 そんなものするなら、あたしのそばに居て。 言えない。 早く証を見つけなくちゃ。 伝える方法を探さなくちゃ。 時間がない。 行かないで飯島くん。 ガタン、と座っていた主が立ち上がったような椅子を引く音が保健室から聞こえて、急いで立ち上がる。 顔は涙で濡れているけれど、立ち聞きしてたことバレたくなくて慌てて走り出した。 渡り廊下を抜けて、まっすぐ更衣室へ。 流れる涙はそのままに走り続ける。 ドンッ、とぶつかった先生に「大丈夫か」って声をかけられたけどそれも無視した。 ぐちゃぐちゃだ、頭の中。 もうどうしたらいいのか分からない。 こんな恋、手放してしまえば楽になるのに、手放すことなんかもう出来るわけがない。 授業終わりのチャイムが響く中、どうしたらいいのか分からなくて、あたしはそれを振り払うように夢中でただ走り続けた。
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