09.*偽悪*

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小さい部品を専門にしているうちの会社。 営業の取引先はいつも大企業。 だからこそ、絶対に欠かせない営業という存在。 断るなんていう選択肢は初めからなかった。 中学1年の時からここに入れられて。 最初は吐きそうなほどの拒否反応を示していたのに、いつのまにか慣れた。 空に教え込まれたのは喧嘩の技で。 それがあるおかげで、俺の営業の仕方に不満を持つ人間も簡単に黙らせることが出来た。 希望なんてまるで見えない。 真っ暗闇の中、それでも心だけは黒に染まりきることが出来なくて。 いつもグレー。 その中途半端加減が自分の中で許せなくて、イヤになっての悪循環。 子供だった無邪気な気持ちなんかもう覚えてない。 見えない世界で、もはや愚痴をこぼす術すら忘れた。 そんな我が家を出て行く空のおかげで俺の負担はさらに増加。 岳は杏奈との仲がどんどんこじれて、妙な駆け引きに手を出した。 それを見て杏奈が泣く。 俺の唯一の支えだったこいつが泣くから、俺が軽くしてやれるならと妙な関係まで持ち始めた。 家庭崩壊っていうか、なんかもう精神崩壊状態。 俺だって感情的になればいいのに、悲しいぐらい自分だけ冷静。 いや、だってもう希望なんて本当にない。 騒いでも助けなんて来ないって、もう悟ってしまっていたからこんなに冷静なのかも知れない。 不良とか、本当にうらやましい。 俺はそこに行けるほど、希望がない。
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