09.*偽悪*

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好きな人と結婚、なんて幻想だと思う。 そりゃ、叶う人だっていっぱいいるとは思うけど。 それでも、俺の立場に居る人は少なくても当てはまらないだろう。 それなりに気に入って、それなりに良いやつを見つけて結婚することが出来るなら十分幸せな方だ。 杏奈は特例。 特例だから、そんな大それた夢を見るだけ。 コイツと俺じゃ世界が違う。 「……ホントに、いいの? 海」 「いいよ。 さっきから言ってるじゃん。 しつこい」 若干苛々してきた。 イイって言ってるのに、何度もしつこくくるからウザくなった。 夜中で眠いから、だからこんなに無性に腹が立つ。 ……それだけ。 「……ねぇ、でも、海…」 「ソレ何回目? いい加減黙れよ」 「……っ」 ……言って、自分でも驚いた。 思わず片手を口元に持って行って、無意識に塞ぐ。 何、キレてんだ、俺……。 杏奈相手に何やってんの、マジで。 すごみのある声。 こんなこと、久しぶりだった。 怒っていても、悲しくても、気持ち悪くても。 今まで何があってもすべて笑顔でカバーしてきた。 ……なのに、これだけがカバーできない。
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