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言い聞かせないと。
潔く、ふりほどかないと。
朝比奈さんが好きなら、朝比奈さんのためを思って……。
「ちきしょ…」
わしゃっ、と前髪を片手で掴む。
前屈みになったおかげで視界はベッドのマットレスでいっぱいだった。
杏奈が不安げでオロオロしているのは見なくても分かる。
こんなことはよくあること。
俺がパーティから返ってくる度いつも杏奈はそんな風だ。
平然とした顔で、ポーカーフェイスを気取って。
『平気だから心配するな』って頭を撫でてあげるのが俺の役目。
……なのに。
「じゃあ、何しろっていうんだよ」
言葉があふれた。
愚痴とか、八つ当たりとか。
そういう概念は全部捨ててきたはずなのに、また漏れ出す。
「朝比奈さんと結婚しろってか。
空みたいに俺もここ捨てて出ていけってか」
「…海……」
「やれるもんならしてるよ、とっくに!!」
ガンッ、とベッドボードを蹴り飛ばした。
その反動でそこに取り付けてある飾り棚がカチャン、と音を立てる。
……あぁ、何やってんの、俺。
その音だけで冷静さを取り戻して、また落ち込んだ。
深いため息が胸の奥底からこぼれ落ちる。
引き出しの中、そっとかくして置いた物。
大事にしまって鍵をかけておいたもの。
そんなものはたくさんあるのに、朝比奈さんの引き出しだけは、もう入りきらないとばかりに悲鳴をあげて飛び出してくる。
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