10.*悪事*

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「……あ、携帯…」 「ん?」 「…あたしの、メール見てくれてたんですか…?」 「……」 飯島くんがポケットに手を突っ込んだまま一瞬固まる。 恐る恐る飯島くんの顔を見上げると、目が合ったと同時にそらされて。 「違うよ」 何とも淡白に言い放った。 「えっ…、えっ、じゃあ…何を……」 「iモード。 俺、今日スマホ忘れたから」 「あ……、あぁ……」 ……なるほど。 「そ、そうですよね! あたしのメールなんか見ても…ねぇ?」 アハハッ、と笑いながら頭を片手で掻く。 うまく笑えている自信はあまりなかった。 ……なんだ。 あたしのバカな勘違いか、やっぱり……。 ハハッ…、と静かなホームにあたしの掠れた笑い声だけが響く。 飯島くんが真顔で、あたしを見下ろしているのが分かるから目を合わせないようにわざと下を向いた。 「……」 「……」 ……あぁ、ヤだな。 この沈黙。 あたしの必死に隠し通そうとした恥ずかしい気持ちが読まれていそうだ。 恥ずかしい。 みっともない。 バカみたい。 ぐちゃぐちゃした、嫌な感情。 それが一気にあたしを襲ってくる。 こんな風に卑下したって何にもならないのに。
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