10.*悪事*

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「……っ」 一瞬、涙がこぼれた。 悔しくて。 悲しくて。 情けなくて。 それと同時に無情にも『ドアが閉まります』と機械的な音性が流れる。 それでも動かぬ足。 拒否する身体。 諦めてギュッと目を瞑った瞬間だった。 「――朝比奈さんっ!」 耳に響いた、聞き慣れた声。 バタン、と閉まる電車の音。 「カイッ!」 と愛咲ちゃんの叫ぶ声が遠くで聞こえた。 「お客さーん。 閉まる直前には出ないようお願い致しまーす」 しゃがれた駅員さんの声がホームに響き渡る。 そしてそれと同時にガタンガタン、と電車が動き出す。 ホームにある電光掲示板からは、乗るはずだった電車の時刻が消えていた。 それでも、残っている。 あたしの指先を握る、ただ一人の、体温。
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