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「……っ」
一瞬、涙がこぼれた。
悔しくて。
悲しくて。
情けなくて。
それと同時に無情にも『ドアが閉まります』と機械的な音性が流れる。
それでも動かぬ足。
拒否する身体。
諦めてギュッと目を瞑った瞬間だった。
「――朝比奈さんっ!」
耳に響いた、聞き慣れた声。
バタン、と閉まる電車の音。
「カイッ!」
と愛咲ちゃんの叫ぶ声が遠くで聞こえた。
「お客さーん。
閉まる直前には出ないようお願い致しまーす」
しゃがれた駅員さんの声がホームに響き渡る。
そしてそれと同時にガタンガタン、と電車が動き出す。
ホームにある電光掲示板からは、乗るはずだった電車の時刻が消えていた。
それでも、残っている。
あたしの指先を握る、ただ一人の、体温。
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