10.*悪事*

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後頭部を思い切り殴られたような衝撃が走った。 涙もこぼれないほどのショック。 右手に持っていた学生鞄があたしの手からするり、とこぼれ落ちたけど、拾う余裕なんて全然なかった。 「……なんで。 何で、そんなこと、言うんですか」 「……」 「あたしじゃ飯島くんに足りないからですか!?」 脇目もふらず大声が出た。 声を出した後、それに刺激されたように涙がこぼれ落ちる。 「…朝比奈さ――」 「あたしだって本気で好きなんです! 飯島くんのことが!」 「……」 「愛咲ちゃんに負けないくらい好きなんですっ!」 八つ当たりだ。 頭の中でどこか客観的な自分がそう言ってあたしを責める。 愛咲ちゃんの方が飯島くんに相応しい。 敗者はさっさと立ち去るべき。 分かってる。 分かってるよ。 分かってるんだよ。 ――だけど もうあふれ出してしまった気持ちが持て余すほど膨れあがってしまっている。 「ふってもいいから…っ! あたしの気持ちもちゃんと受け取って下さいっ…!」 「……」 「もっとちゃんと、告白して。 もっとちゃんと、あたしをふってくださいっ!」 泣きながら、地団駄を踏みながらそう叫んだ。 ホームのど真ん中。 子供みたいに泣きじゃくりながら。 「……」 飯島くんは黙ったままあたしの話を聞いていたけれど、やがて。 「……それで諦めてくれるなら」 と、承諾してくれた。
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