10.*悪事*

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あぁ、ふられるんだな。 心のどこかが自嘲じみた笑みを漏らす。 涙に枯れたどうしようもない顔。 こんな一瞬であたしの長い恋は終わってしまうんだな。 そう思ったけど、この妙な怒りと悔しさの勢いは止まらない。 「あ、あたし…っ」 「うん」 「い、飯島くんに、確かに、恋してます…っ」 「…うん」 ずっ、と鼻を啜ったあたしの言葉を待つように飯島くんは相槌を打ってくれる。 その優しさに甘えるようにその先を続けた。 「…背中、向けられると追いかけたくなります」 「……うん」 「こっち見てくれれば、抱きつきたくなって。 傷ついてたら、力になりたくります」 「……」 「夜に、なれば…っ、会いたく、なります」 「……うん」 「あたし、だけの方をっ、向いて欲しくて…っ」 「……うん」 「…っふ……うぅ」 泣いている所為で声が詰まる。 鼻を啜る音がやまない。 振られるのが、イヤで怖くて。 それでももう逃げられないこの状況に手立てはない。 「……これっ、恋ですよね…?」 「……」 「飯島くんのことっ、欲しいって思うの…。 恋、ですよ……」 ね。 そう言いかけた声は、飯島くんのあたしを抱き寄せる力でかき消された。
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