10.*悪事*

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「…恋だよ。 朝比奈さん」 ぎゅううっ、と息もできないほど強く抱きしめられた。 ボロボロこぼれる涙が止まらない。 「……す、好きじゃない人…。 抱きしめないで、ください…っ」 「……うん。 抱きしめない」 「……っ、ドキドキ、するんですっ…!」 「うん、するね」 「………っ、な、なんで…」 「好きだからでしょ」 淡々と。 そう答えたはずの飯島くんの声が震えていた。 足がガクガクして力が入らない。 あふれる涙だけがひたすら止まらない。 期待した気持ちで心臓が破裂しそうだ。 「いっ、飯島くん…っ! ご、誤解しますよっ…、あたし」 「……うん、いいよ」 「いいよ…って…!」 その言葉に絶句して飯島くんの顔を腕の中から見上げると、この上なく優しげな目があたしを見下ろしていた。 細めた、誰もを魅了する美しい目。 それが、誰でもない。 あたしだけに向けられている、ただその事実。 それがどうしようもなくあたしの心を揺さぶり、壊れそうなほど膨らませる。 「…い、飯島く…」 「好きだよ」 「……え…」 信じられない言葉に目を見開いた瞬間。 「朝比奈さんが、好きだよ」 そう言葉を紡いだその唇は、優しくあたしの唇を塞いだ。
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