10.*悪事*

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「ほら。 もうこれ学校間に合う最終の電車だから。 行って?」 トンッ、と彼女の背中をドアの開いた電車の方に押すと、朝比奈さんは名残惜しそうに振り返る。 そして、 「い、飯島くんは乗らないんですか…?」 と控えめに、探るような瞳で俺を覗き込んできた。 …うん、可愛いね。 その目。 その不安げな目。 俺ってSなのかもって自分で思うくらい、朝比奈さんが俺を欲して泣きそうになる目は好きだ。 彼女限定だけど。 「…俺は、やることあるから」 「……やること?」 「うん。 一回、家戻らないとね」 「……そ、そうですか…」 しゅん、とした顔を全面に出して頭(こうべ)を垂れる朝比奈さん。 犬みたいに分かりやすいな、と心の中で少し笑いながら、朝比奈さんの背中をまた少し押した。 それで諦めたように朝比奈さんも自分の足で電車の中に入る。 「……ほら、しゅんとしないの」 今にも泣き出しそうな顔して、電車に乗って俺を見る朝比奈さん。 あぁ、もう。 ほら、俺だって手放したくなくなるんだけど。 どうしようもない愛しさと、名残惜しさが体中を満たす。 それでもやらなくちゃいけないことがあるから、彼女に手を振って別れを告げた。
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