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「ほら。
もうこれ学校間に合う最終の電車だから。
行って?」
トンッ、と彼女の背中をドアの開いた電車の方に押すと、朝比奈さんは名残惜しそうに振り返る。
そして、
「い、飯島くんは乗らないんですか…?」
と控えめに、探るような瞳で俺を覗き込んできた。
…うん、可愛いね。 その目。
その不安げな目。
俺ってSなのかもって自分で思うくらい、朝比奈さんが俺を欲して泣きそうになる目は好きだ。
彼女限定だけど。
「…俺は、やることあるから」
「……やること?」
「うん。
一回、家戻らないとね」
「……そ、そうですか…」
しゅん、とした顔を全面に出して頭(こうべ)を垂れる朝比奈さん。
犬みたいに分かりやすいな、と心の中で少し笑いながら、朝比奈さんの背中をまた少し押した。
それで諦めたように朝比奈さんも自分の足で電車の中に入る。
「……ほら、しゅんとしないの」
今にも泣き出しそうな顔して、電車に乗って俺を見る朝比奈さん。
あぁ、もう。
ほら、俺だって手放したくなくなるんだけど。
どうしようもない愛しさと、名残惜しさが体中を満たす。
それでもやらなくちゃいけないことがあるから、彼女に手を振って別れを告げた。
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