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長い廊下をずっと歩き、その奥の一番端の部屋。
そこが俺の父親の仕事場だった。
寝る、食べる、風呂入る。
それ以外の時は基本的にいつもここにいる。
彼の行動範囲は意外と狭い。
「……ねぇ、入るよ」
コンコン、と二回ノックをしてそのドアを開けると、ちょうど秘書が出ようとしていた所らしく入口付近で驚いたようにその目を見開いていた。
ペコッと小さく挨拶をすると、彼は深々と一礼してくる。
その態度に内心嫌な感じがして首の後ろをポリポリと掻きながらわざとダルそうに親父の元へ歩いて行った。
親父は明らかに不審な顔をして俺を睨む。
「…何の用だ、カイ」
「……」
……思えば、久しぶりだな。 話すの。
威厳というよりは、威圧感のある低い声があまり聞き慣れていないような錯覚を覚えて思わず顔を顰める。
机に両肘をつき、その手を顔の前で組んだ俺の目の前の男は、その俺の態度も気に入らないようで更に眉間の皺を深めた。
「……学校はどうした、お前。
一般人の価値観を感じるのも社会勉強だと言ったと思うが」
「……見て分からない?
サボった」
「…おまえは相変わらず、自由だな。
もう少し俺の言うことをきけ」
「……」
『自由』のわりには俺、随分窮屈な生活を強いられてると思うんだけど。
半分呆れたような気持ちで、やたらデカイ態度の父親にため息をついた。
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