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「……我慢?」
意外な言葉が出てきて首を傾げると飯島くんは苦笑して、
「風花には分からない言葉だろうね」
と柔らかな声で呟いた。
そして、また滑らかな動作でひょい、と跳び箱の上に座る。
高校用の八段の跳び箱が、五段の跳び箱に見える錯覚を覚えるほど本当に余裕そうだった。
「……あ、あの。
う、自惚れだったら世界で一番恥ずかしいんですけど」
飯島くんの言葉を聞きながら、ふと浮かんだ考えが頭をよぎって、顔をあげて飯島くんをみる。
飯島くんは、跳び箱の上から天井に手を伸ばしてそこをギシギシと軋ませていた。
そして、あたしの言葉を聞いてあたしをそのままの体制で見下ろす。
恋愛ムードが欠片もない、この状況で言い出すのはちょっと嫌だなと思いながら重い口を開いた。
「が、我慢はっ、あたしと同じ我慢だと思っても良いですかっ?」
「え」
飯島くんが天井をギシギシとさせていた手をふいに止める。
ポーカーフェイスの飯島くんが珍しく少し目を見開いて凝視しているから、無駄に緊張が出てしまって思わず2、3歩後ずさってしまった。
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