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「ありがとう、ございます…」
「……うん」
飯島くんは思いの外、目を細めて柔らかな表情で頷いてくれた。
いつも無表情でどこか感情なんか読めないのに、こんな時だけ笑う顔がとてつもなく優しいからずるいと思う。
「…すごく、楽しみです。
土曜日と、…日曜日」
言葉ひとつひとつ、その意味を確かめるように大事に声に出した。
こんな約束ひとつがこんなにも嬉しいのはどうしてなんだろう。
「……俺も」
柔らかい表情のまま、飯島くんはそっとそう呟いて。
それがまるで、あたしと飯島くんの気持ちが同じだとでも言うような錯覚をあたしに作ってくれた。
「……」
飯島くんがストン、と跳び箱から飛び降りる。
この切り取られたような狭い体育館倉庫の空間。
遠くから鳴っているようにも感じる予鈴の音が聞こえた。
「……ねぇ、風花」
「…はい」
コツ…、と飯島くんの靴音が体育館倉庫の中で響く。
やけにその音が大きく感じた。
「……好きだよ」
「……は、い」
優しく、包むように抱きしめられたあたしの身体。
強引ではないし、きっともしかしたらすごく不器用なのかも知れないけれど。
それでも今、確かに。
あたしにしか感じられない幸せの特権を手に入れた気がした。
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