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「……ふったよ」
俺が答えるまでに数秒の沈黙が出来た。
別に嘘をついているわけでもないし、後ろめたいことがあるわけでもないのに、その返事を返すのに戸惑った。
杏奈は愛咲とは仲が良い。
杏奈の家も、うちとしてはかなり大きな取引先で、その辺が愛咲と一致していることもあり、パーティで知り合ったらしい。
二人ともテンション高いし、お互い雰囲気も似ているし。
いわゆる『類友』というやつで仲良くなった。
……と、前に杏奈が嬉しそうに俺に話していたような気がする。
「……そっか。
まぁ、そうだよね」
「ごめん」
「別に謝る必要はないわよ!
しかもあたしになんて」
アハハ、と杏奈は笑ったけれど作り笑いであることはその表情から分かった。
愛咲のこときっと心配しているのだろう。
それを見れば、心のどこかがチクリと刺すように痛む。
だけど、それでも。
例え杏奈が土下座して俺に頼んできたとしたって、俺は愛咲を受け入れることはできない。
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