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「……あのさ。
海が愛咲をふったとき、愛咲、どんな様子だった…?」
探るような視線を俺に向けて、杏奈が少し困ったように笑う。
それを見ながら、俺は正直に答えた。
「落ち込んでたよ」
「……だよね」
「あと、泣きそうな顔で一生懸命笑ってた」
「……」
その一言で杏奈があからさまに表情を歪めた。
杏奈まで泣きそうな顔をしている。
こういう仲間や友達思いの所は昔から好きだったなと思いながらそれを眺めた。
「……あたしね」
「…ん?」
「前に愛咲から聞いたことあるんだ」
杏奈が俺の方を見ないまま、口を開いた。
目は伏せていても、ぎゅっと握った拳は微かに震えている。
「……本当に、結構前のことなんだけどね」
「うん」
「まだ海との結婚話とか何も出ていなかった頃に、愛咲がすごく不安そうにさ、『あたしが未来結婚する人はどんな人なんだろう』って言ってたんだよね」
「……」
「それ聞いてあたし、婚約者が誰だか分からないけど、自分で決めることもできないって辛いんだなって思ったの」
「……うん」
「だって、酷いと年が20歳以上も離れたおじさんとかかもしれないんだよ?
それって結構怖いことだよ」
それがどれだけの恐怖心を作るのか。
きっとそれは、俺にはあまり分かることの出来ない大きさの恐怖心なんだろう。
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