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「せっかく、海が幸せになれたのにね。
どうしてこんなにいつも代償が大きいんだろう」
「……」
「どうしていつも、海ばかり。
何かほんの少し崩れただけで、こんなに罪が大きくなってしまうんだろう」
「いいよ、杏奈。
別にそんな泣かなくても」
ポタポタ、と杏奈の目からこぼれた雫がカーペットを濡らしていた。
俺も杏奈と目線を合わせるように杏奈の前にしゃがみ込む。
杏奈が顔をあげないから、顔は見ることができなかった。
「…はい、ティッシュ。
鼻水ふけば?」
近くに置いてあるティッシュボックスに手を伸ばして、それを差し出す。
すると杏奈はぐしょぐしょの顔を少しだけ上げて、俺を見上げた。
「いっ、今、鼻水とか言うなんて…っ!」
「だって、涙に混ざって鼻水出てるでしょ。
ドラマじゃないんだからしょうがないよ」
「うっさい、黙れ!
デリカシー持ってよ」
「杏奈にだけは言われたくないかな」
茶化すような口調で言いながら、少しさっきより元気になった杏奈を見て心のどこかでホッとした。
杏奈の泣き顔を見るのはあまり好きじゃないのに、杏奈はよく泣く。
岳に対して、友達に対して。
俺に対して。
せめて俺のコトだけは泣いて欲しくないし考えて欲しくないから、こんな時はいつもティッシュを使っていた。
誰かの涙を見るのはいつだって、誰だって苦しい。
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