2482人が本棚に入れています
本棚に追加
「あ、…ありがとう……ございます」
こう言うのが精一杯だった。
いや、こう言うだけだって息が続かないほどドキドキしている。
もっと余裕で聞き慣れてるんですよー、ってオーラを出せるようなことを言いたかったけど、とてもじゃないけど無理だった。
可愛い、って言葉はかなりの魅力を持っている。
好きな人が言えばなおさら破壊力が半端じゃない。
「……」
真っ赤になった頬を冷ますように、デパートの高い天井を仰いだ。
はー、ってため息が漏れる。
そこに響くのは、流れる軽快な音楽とたまに放送。
「……腹、減ったな」
「そうですね。
靴屋さん行ったあとなにか食べますか」
「うん。
風花、何がいいの」
「あー…、何でも。
ファミレス、うどん、ソバ、ラーメンなんでもオッケーです」
「ラーメンって……。
初デートにミスマッチだね」
「ハハ。
でもあたし、好きですよ」
「そっか」
他愛のない会話。
繋いだ手を少し揺らしながら、靴屋さんまでの道のりを歩く。
指先だけで伝える想いがもどかしかった。
最初のコメントを投稿しよう!