12.*明日*

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『可愛いって言ってんの』 照れた顔でそう言った飯島くんを思い出した。 思い出しただけで、胸の奥がきゅうっとなる。 ……お世辞、じゃないよね。 それでも疑う自分がイヤになる。 軽い自己嫌悪。 サンダルの並ぶ棚に手をついて、はーっとため息をはくと隣の女の子たちがキャア、と黄色い声をあげた。 「ねねっ、イケメンこっち来たよっ」 「てかめちゃめちゃ、こっち見てないっ!?」 「うちら見すぎたかなー」 呑気な女の子たちは嬉しそうだけど、あたしは氷点下の世界に連れ出される。 今、飯島くんの隣に並びたくない。 それでも逃げるのはさすがに不信だから、そんなことをするわけにもいかない。 どうしようもなく、そのままの体制で俯いていると、 「風花、良いのあった?」 心地いい声が、あたしの耳を擽った。
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