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「………」
―――異常、なし。
まるでこれから泥棒にでも入るような気分で、ドアの隙間から頭を覗かせて周りをキョロキョロと見渡す。
シャンデリアが飾られたその廊下には、思っていたことに反して警備員やそれらしきものはほとんどいなかった。
助かるけど、ちょっと不自然すぎて怖い。
ドアクローザーが軋みやすいものだと分かったので、その音がなるだけ小さくなるように気をつけながら部屋のドアを閉めて、ゆっくりと出口を探るように辺りを見回す。
物音一つしない、その場所は少し不気味なくらいだった。
……まさか、俺実は誘拐されてたとかいうオチはないよね。
まさかね、と心の中で半分笑いながらその可能性が打ち消せないくらいに静かな廊下。
そこを神経を張り巡らせながら歩いていたとき、ふいに背後から声がかかった。
「海様。何しておられるのですか?」
「………」
この、形式張った物言い。
振り返らなくても、うちの仕事場で雇われている人間だと分かった。
そして決定したのは、やっぱりこれが「親父が企んだ罠」だということ。
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