2482人が本棚に入れています
本棚に追加
「じゃあ、質問変える。
あんた、俺を逃がしてくれる気ある?」
「……」
男はピタリと動きを止めた。
そして曖昧な笑みを浮かべて淡々とした口調で答える。
「ありません」
「あー…、やっぱりね」
いや、分かってたんだけどね。
心のどこかで抱いていた期待を100%打ち砕いてくれたことを呪いながらため息を吐く。
やっぱり正面突破しか俺に道はないらしい。
「じゃあ、ごめんね。
ちょっと痛くするよ?」
「は……」
男が返事をし終わる前に、俺は素早く彼の左腕を引き、その背後に回って首に手を回した。
こういうことは速さが一番の鍵になる。
ノロノロしてれば、相手が反撃してくる。
その一瞬を絶対に与えないのが喧嘩のコツ。
押さえ込んだ左腕を背中向けにねじ上げると、腕に独特の感覚がした。
それと共に、前の男がうめく。
痛いのは重々承知だから、心の中だけで謝罪の言葉を彼に渡した。
「肩、ハズしたから。
後ではめてもらって」
「……っ」
「痛いよね、俺もやられたことがあるから知ってるよ。
ごめん」
誰に、ってそんなの一人しか居ない。
俺に脱臼させる方法を教えたのも、喧嘩の方法を教えたのも同じ人だ。
最初のコメントを投稿しよう!