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「……なんだ、空か」
この緊迫した時には不釣り合いの顔に、安堵なのか呆れなのか、その両方なのかよく分からないため息を無意識に零す。
空はムッとしたように、俺のこめかみをコツリと拳で軽く打った。
「なんだよ、もうちょっと歓迎してよ、海くん」
「やだよ。
つかなんでいるわけ、ココに」
「海を捕獲しに」
「いや、そういう嘘いらないから」
心のどこかで本当に捕獲する人でなくてよかったと思いながら、俺の首巻き付く空の腕から手を離す。
空はそれでも俺の首から腕を外さないまま、俺の肩に顎を乗せた。
「なんだよ。
もうちょっと警戒しろよ」
「しないよ。
あんた相手にする警戒持ってない」
「それ褒め言葉なのか貶し言葉なのか分からないんだけど」
むー、と口を尖らせながら、それでもどこか気分良さそうにハハと空が笑う。
そして、周りにいくつか転がるうめき声をあげた男達を見て、「ほー」とまた緊迫感ゼロの声をあげた。
「おまえ、強くなったなー。
修行でもしてきたのか」
「まさか。
せいぜい俺の営業に口出してくる奴らをちょっと懲らしめるのに使った程度だよ」
「あー、やっぱそれに役立ってるんだな、俺の技術は」
その声はどこか寂しそうに、うめき声だけが響くその場所でこだました。
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