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飯島くんが他の女の子と結婚するなんて、正直言って考えられなかった。
痛むとか苦しいとかの前に、そんな簡単に想像が出来なかった。
だって言葉だけだもの。
明日会おうね、ってちゃんと約束をしたんだから。
「……おはよう、風花ちゃん」
階段を下りて、玄関のドアを開けるとにっこり笑っている杏奈先輩が本当に立っていた。
その後ろには、ベンツ。
その後ろで控えている運転手さんは、確かパーティの時に一度お会いした人だ。
前回と変わらずにあたしに深々と頭を下げてくる。
「……あ、の。先輩…」
「ん?」
「………い、飯島…くん、が。
結婚しちゃう…、とかって……」
「あぁ、うん。
お父さんがね、…あ、これ岳のお父さんね。彼が、やっぱりどうしても、海と愛咲を結婚させたいらしくてね」
「……はぁ」
「うん、やっぱり会社の利益には大きく繋がるからさ。
社長としては当然の行動っていうか正しい行動だとは思うんだけど。あたしも。
……って、風花ちゃん…!?」
「はい?」
「なんで、泣いてるの!?」
「え…」
泣いてないですよ。
そう笑って言おうとして、頬に手を当てたら一粒の雫を感じた。
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