13.*略奪*

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「……っ、」 嘘。泣いてるなんて。 泣いてることに気づかないなんて。 まさかそんなことあるはずがない、と思っていても確かにあたしは泣いていた。 濡れた頬と少しぼやけた視界がそれを示している。 泣く理由なんてあたしにはないはずだ。 だって現実味を感じることすら出来ないのだから。 「……ふ、うぅ」 だけどそれがすごく悲しい。 現実味を感じることすらできない自分。 ドラマみたいに血相変えて走ることが出来ない自分。 悲しい。この現実がすごく悲しい。 彼氏は今、会社のために結婚するとかしないとかの話で悩んでいる。 それに比較して彼女は結婚するとかそういう話はもはや「夢か現か」という世界にすらなってしまっている。 何なのだろう、この非常に遠すぎる距離は。 どうしてあたしと飯島くんはこんなに離れてしまっているのだろう。 昨日、普通にデートをした。 笑って喋って、靴を見て、泣いて、抱きしめて、キスをした。 これだけだったんだ。 たったこれだけの、それでも確かに幸せを感じられる道を一緒に歩いてきたつもりだった。 だけどこういうことが起きる度に感じる。 あたしと彼の圧倒的な違い。
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