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「ど、どうしたら…っ、いいんですか…っ」
「えっ」
涙声で杏奈先輩に聞いた。
聞かなくちゃ分からないほどあたしと飯島くんの溝が深いから。
「どうしたら、…い、飯島くんの結婚、止められますか…っ?!」
「…うん、それは…」
「あたし、どうしたらいいのか何にも浮かばないほど分かってあげられないんです…っ!」
ズッと鼻を啜ってたまたまポケットに入っていたハンカチを取り出して、そこに顔を埋めた。
鼻を掠めたのは、わずかな石けんの香りと、あたしの香り。
あたしがあたしであるというこの現実は思っていたよりも飯島くんから遠いらしい。
その溝は「好きだよ」とか、そんな言葉では埋められない。
今までに生きてきた過去の差だ。
「……風花ちゃん」
「…っは、い」
「海のそういうとこ全部分かってあげなくてもいいのよ?」
ポン、と杏奈先輩の手があたしの旋毛当たりに柔らかく乗った。
それがゆっくりと上下に動いて、あたしの頭を撫でる。
あやすような、まるで本物のあたしのお姉さんみたいな、撫で方だった。
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