2482人が本棚に入れています
本棚に追加
ブーッ
その不安をかき消すように、あたしの携帯が振動した。
それにハッと顔をあげて思い切り立ち上がる。
緊張とかそんなことは微塵も感じなかった。
飯島くんを連れ出すこの状況に理性なんか正直働いていなかった。
早く、早く、早く、早く。
なんとしても飯島くんをここから連れ出したい。
ガチャンッと重い扉を一生懸命押しながらドアをゆっくりと開けたとき、ふと空いた隙間から声が聞こえてきた。
『汝、飯島海は神崎愛咲を妻とし、病めるときも健やかなるときも、富めるときも貧しきときも、死が二人を分かつまで、愛し合うと誓いますか?』
「……」
思わず、ドアを開ける手がそこで止まった。
早く出なくちゃ、と思うのに身体が動かない。
結婚式の誓いの言葉は不思議だ。
思ったよりずっとずっと重みがある。
勢いづいていたあたしの動きが止まるほど。
そのとき、飯島くんがゆっくり息を吸う音が聞こえた。
「誓いません」
最初のコメントを投稿しよう!