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「……は…?」
「いやだから、誓いませんってば」
唖然とする神父さんにサラッとそう言って飯島くんは小さく欠伸をした。
その様子に一斉に周りがざわつく。
けど、飯島くんはそれをものともせずに身体の向きを180度変えると、ドアの隙間から覗くあたしに視線を合わせてふわりと笑った。
「そんなとこにいないでよ、風花」
「えっ」
ふいに名前を呼ばれて、目を見開く。
銀色のタキシードに身を纏った彼が、ゆっくりと優しい笑みを見せた。
「来てよ。風花。
早く、俺をさらってよ。
じゃないと、俺が行かなくちゃならなくなる」
そう言いながらコツコツとその足はあたしの方に向かって歩いてくる。
周りにいるエリートの人たちも、愛咲ちゃんもみんながあたしに注目していることは分かっていたけれど、あたしの目には飯島くんしか映らなかった。
やがて、コツコツと式場に響いていた靴音はあたしの前でピタリと止まる。
目の前に広がった銀の世界にあたしは口をきくこともできない。
「ちょっと、風花。
意識ハッキリしてる?」
「は……、はい…」
「じゃあ奪いに来てよ。
辿り着いちゃったんだけど、俺」
「………」
「風花?」
あぁ、ダメだ。
視界がぼやけて前が見えない。
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