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「今更だけど、タキシードで逃げるのは無謀だったね」
結婚式会場を抜け出して、路上に出ると俺は迷わずタクシーを捕まえた。
高いんじゃ、とかごちゃごちゃ風花が言っていたけど、ほとんど無理矢理引き込むようにしてタクシーに乗せる。
「あの、飯島くん。あたしお金……」
「俺持ってるから。
杏奈からカードも貰ってるしね。」
「……ぬ、ぬかりないんですね」
「どこにいってもお金は必須」
「……」
結婚式から連れ出されたにしては、随分現実的な会話をしながらタクシーの運転手さんに行き先を告げる。
言ったのはここからそれなりに距離の離れた服屋だった。
タキシードは走りづらいし、何より目立つ。
親父が俺を捜さないわけがないし、俺は見つかるわけにはいかない。
だからとりあえず、人目のつかないタクシーに追っ手が追いつく前に慌てて乗り込んだ。
「……ホントに、抜け出して来ちゃったんですね……」
風花が吐息混じりの声でそう呟く。
「あっという間すぎて実感湧かないです」
「ハハ、俺も」
思ったよりも随分手っ取り早くて、しかも時間も本当に一瞬で、実感なんか全然湧いてない。
まるでおままごとでもしてきた気分だった。
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