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二回目のキスは触れるだけ。
唇を離しておでこをくっつけ合わせればそこから伝わる確かな体温。
どうしてだろう。
こんな、いつだってできそうなことがどうしようもなく嬉しい。
世の中にありふれている、こんな幸せが嬉しい。
「………ありがと。風花」
「え?」
俺の間近でまばたきを繰り返す風花の肩に顔を埋める。
ふわり、と風花の温かな香りがした。
「……マジで。
連れ出してくれて、……ありがとう」
「………」
声が、掠れた。
脈打つ心臓が、痛いくらいの幸せを感じた。
今だけだ、――こんな幸せは、今だけ。
俺たちが犯したのは十分大罪に値することくらい分かっている。
俺が逃げた所為で、今頃愛咲の家からの苦情が入っている。
神崎は、うちのお得意様だ。
そこから受ける打撃はきっと相当のものだし、今頃時期社長となるはずの岳が頭を抱えているのは目に見えている。
分かっている、分かっている、分かっている。
―――分かってはいるよ。
だけど、
「……風花」
「は、はいっ」
「………好き」
「………っ!」
俺の一言で、風花が肩を震わせる。
そんな彼女を失った自分が怖くて、とてもそんなことはできそうにない。
もう、戻れない幸せを知ってしまった所為だ。
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