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「シングル二部屋、お願いします」
背中に風花を乗せたままシティホテルに入ると、受付の若い女の人は少し驚いた面持ちで俺に尋ねた。
「あの、そちらのお客様は……」
「大丈夫です。
旅行中に具合が悪くなってしまって」
「そうですか。
お医者様の手配などは……」
「いえ、もう見て貰いましたので」
淡々と事柄を告げると、受付の人はイマイチ納得できない様子で俺たちに部屋の鍵を二つ俺に渡す。
オートロックのようで渡されたのはカードだった。
「お部屋まで案内致します」
横から、きちんとした身なりの男が出てきて一礼する。
それについていきながら、風花を背負い直すと風花が苦しそうに小さく息をはいた。
そのたびに、今すぐ帰った方がいいんじゃないか、という気持ちが俺の中に溢れてきて、強く俺の心を揺さぶる。
「…風花、もうちょっとだから」
「は、……はい」
かろうじて頷いたときに風花の口から漏れる吐息は驚くほど熱い。
不安な気持ちを持て余したまま、ホテルマンに促されて部屋に入るとすぐさま彼女をベッドの上におろした。
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