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「飯島くん、疲れてない?
いいよ、寝てて」
「俺は平気だから。
今は風花のことだけ考えて」
「でも……」
「口答えしないで、いいから寝て。
それが俺の為なんだから」
言いながら、風花の髪を梳く。
頭皮がいつもよりずっとずっと熱かった。
「……ホント、無理はしないで」
「大丈夫だって」
あやすようにそう繰り返して、風花の頭をポンポンと撫でる。
風花は不安そうな顔はしていたけれど、やがてゆっくりとその眼瞼を閉じた。
「………」
風花が寝て、部屋に沈黙が落ちる。
気が抜けたように、椅子に座ったまま身体を前のめりにしてダラン、とだらしなく首を下げるとふと机に置いてあるリモコンが目に入った。
「……」
思わずそこに手が伸びる。
赤いボタンを押すのには少し勇気が必要だった。
だって分かっている。俺は知っている。
風花の知らない、今混乱に陥った飯島家を。
きっと潰れるか潰れないかの瀬戸際で話をしているに違いない。
俺がいなくなったら、営業が成り立たなくなる。
俺が結婚をやめたから、神崎との繋がりは完全に途絶えた。
『いいから、おまえは気にするな。
今までよく頑張ってきたんだ。好きに生きろ』
結婚式の前に、空が俺にそう言ったのをふと思い出した。
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