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力を抜いていた重い身体を、持ち上げるように椅子から立ち上がった。
そして風花の傍により、その頭に乗せたぬるくなったタオルを冷やした物に変える。
テレビは小さな音量にして置いた。
風花が目を覚まさないように。
片耳でそのニュースを耳に入れて、最低限の現状を頭の中にたたき込み、ベッドの近くにある机に風花が目を覚ましたとき必要な物を準備する。
寝る前に飲む薬。
明日の朝、飲む薬。
そして水の入ったコップ
風花の身体が辛くなったときに、誰かに助けを求められるように携帯電話も置いておいた。
熱さまシートもワンセット置いておく。
冷蔵庫に入れておいた方が気持ちいいだろうけど、そこまで歩くのも苦だろう。
本当は、この病人をここに置いていくのは嫌だった。
一人にするのはやっぱり不安だし、この辛いときだからこそ風花の傍で看病したいと思う。
―――でも、ダメなんだ。
今のままじゃ、うまく看病すら出来ないんだ。
風花のために、一番安心できる家にすら連れて行ってやることが俺には出来ない。
逃げ回っている現状のせいで、風花に「なんかダルイかも」と言わせることすら俺には出来ない。
だから全部、俺が俺の手で決着をつけないとダメなんだ。
俺はレシートの裏に、走り書きしたメモだけを机において、ホテルの一室を後にした。
ホテルの廊下にある窓から、強い風が吹き込んできて俺の髪を揺らす。
その風から、ほんの少し海の香りがした。
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