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一瞬、嫌な予感が風花の胸をよぎった。
だから、それを消すために飛びつく勢いでそのメモを取る。
そしてメモの中身を見て、絶望的に思った。
でも、それでもどうしてもその予感を打ち切りたくて、机の上にある携帯電話に手を伸ばす。
電話帳から飯島海の名前を素早く見つけ、一瞬の隙間も惜しいように、そこに電話をかける。
すると、そこから流れてきたのは虚しい電子音だけだった。
『おかけになった電話は電源が入っていないか電波の……』
ピッ。
耐えきれなくてそこで電話を切る。
携帯を持つ手が震えた。
「……行かないでって言ったのに…!」
絞り出すような声で、誰も居ないホテルの一室に向かって叫ぶ。
当たり前だけど返事はなくて、風花は震える手を力なく、その場に落とした。
どうしても行って欲しくなかった。
海が、家を気にかけていること、本当は分かっていた。
だけどそれでも嫌だった。
心残りなら家に帰ってもいいんだよ、なんて軽々しく言えそうになかった。
我が儘だ。自分勝手だ。知っている、そんなこと。
パラリと風花の手から一枚のメモが滑り降りる。
それがベッドを伝って、床に落ちた。
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