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「戻るって、どこに……っ!?」
答えが返ってくることのない問を風花は叫び、ベッドに顔を埋める。
そこからした匂いは海の物でも、自分の物でもない、異質な匂い。
たった数時間前まで、風花のそばに居た。
好きだと言って、キスを重ねた。
離れないと約束してくれた。
その男はもういない。
風花の手の届きそうにない、あの教会のまたその奥へ行ってしまう。
逃避行のようなことをしていても、この不安が消えることはなかった。
海の目は時々風花を見ていなかった。
いや、むしろ見るように努力しているようにさえ思えた。
消えてしまう。自分が風邪を引いている間に。
寝なければ良かった。そうしたらこんなに苦しむこともなかった。
胸が張り裂けそうにいたい。
ここは確か、高級なホテルだったはずだ。
思い切りベッドに顔を埋めて、声を押し殺すことなく散々泣いた。
誰も見ていないことをいいことに、鼻水もそのまま泣いた。
『戻るよ』
本当に言うことは曖昧だった。
風花の元になのか、自分の家になのか。
分からないのは、きっと海の思惑だと分かってるからなおさら悲しかった。
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