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家に帰ると、最初にあったお手伝いさんが驚いたように自分の口にその手をやった。
俺は彼女を見ながら、人差指を唇の前でたてて「しっ」と囁く。
お手伝いさんは戸惑ったように視線を動かしながら、それでもコクコクと頷いた。
……自分の家なのに、泥棒に入るみたいだ。
足音を立てないように廊下を歩きながら、そんなことを思う。
長い廊下を歩いて行く先は、俺の父親の部屋だった。
そこに入ろうとドアを開けたとき、ふいにその隙間から声が聞こえてその手を止めた。
「……いい加減にしろよ、親父」
聞こえた声に驚いた。
その聞き覚えのある声は、間違えようもない空の声。
勘当されたはずの彼がここにいるということで、今話していることが確実に俺のコトだと確信してそのままそこで聞き耳を立てる。
「海をまた俺みたいに勘当させる気かよ」
空の声は怒りを含んでいた。
空は怒るとドスのきいた声を出すようになる。
「……海はそれを望んでいるだろう」
「んな訳ねぇのが分からねぇのかよっ!!
それでもおまえ、経営者か!?」
バンッと机を思い切り叩く声が聞こえた。
その奥で皿が割れるような音がそれに続いた。
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