16.*幸福*

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「まぁ、でも事実だよな。 次期社長が認めたから折れたんだろ。 親父も引退時だし」 空が岳のビールをその手から奪い、一口飲んだ。 それに岳が顔を顰める。 「おい。 なんで俺が開けたヤツを取るんだよ」 「未成年の飲酒は、法律で禁止されています」 「俺19だし。 もうほとんど成人してるだろ」 「でも、ダメなものはダメ」 ぐびぐびと、空がビールを一気に自分の喉に流し込んで、ニヤリと白い歯を見せて笑う。 そして、空にペットボトルのウーロン茶を渡した。 「まぁ、これで諦めろ」 「ざけんな」 「ほら、海も飲めよ」 ポンッと俺が座るベッドの方に同じボトルが投げられる。 それを片手でキャッチして、俺もカチリと音を立ててペットボトルのふたを開けた。 「……ねぇ、杏奈」 「ん?」 ペットボトルに入るウーロン茶を一口飲みながら、杏奈が俺を振り返る。 大きな目がキラキラと光っていた。 「風花。大丈夫だった?」 「ん?うーん。 心配してたよ、海のこと」 「あー…、まぁ、そうだよね。 そうなるよね」 「しかも、あんた置き手紙が曖昧。 風花、戻るって風花の元なのか、会社なのかよく分からなくて混乱してたみたいだし」 「いいんだよ。それを狙ったんだから。 帰ってくる補償なんかないからね」 本当に、心のどこかでそう思っていた。 ひどいと風花のことで脅されて、もしかしたらここから出られなくなるかもしれないと本当に思っていたから。 こんなに上手くいくなんて、奇跡みたいに感じる。
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