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「ちょっと。
なんでそういうこと人前でサラッと言うわけ!?」
「いいだろ。
事実なんだから」
「事実だから、良いってわけじゃないじゃんか!
自分は嫌なこと人にしたら…」
「はいはいはいはい。超うぜぇ」
目の前で痴話げんかを始める二人を見ながら、俺と空でため息をつく。
ふと顔をあげると、窓からちょうどよく半月の月が顔を出していた。
半分くらい黒い雲に覆われたそれは、その中でもキラキラと輝いて俺らの部屋を電光に負けまいと照らし出す。
『なんか平和』
そんな言葉をふいに思い出した。
平和、―――確かに。
すごく平和な瞬間だと思う。
兄弟仲むつまじくこんな風に、酒とかウーロン茶とか飲んで、グダグダと話をして。
ただそれだけの幸せをいつのまにか忘れていた。
忙しさに巻かれて、大人の汚さに溺れて。
もう自分も汚れて、その修復なんか絶対に効かないとそう思っていた。
でも違うのかもしれない。
一度知ってしまったものは確かにもう二度と消えたりしないけれど、知ってるからこそ強く生きられるこの瞬間。
知ってるからこそ、大事に出来るこの瞬間。
その方がきっとずっともっと、価値がある物なのかも知れないと思った。
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