16.*幸福*

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「あ、これ出そう」 「えっ、どれですか?」 「これこれ、ここのヤツ」 飯島くんが指さした英単語に丸付けながら、ふと飯島くんの手に目をやった。 骨張った手。 男の人の手だ。 目の前にあるから思わずぎゅっとその手を握った。 「……なに」 飯島くんが英単語から顔をあげて、あたしを凝視する。 あたしの手をふりほどいて離れていかないことが嬉しい。 「繋いでいて下さい」 「はい?」 「電車が終わるまで。 前に繋いでくれていたことあったし」 「……」 飯島くんがあたしの言葉に不思議そうに首を傾げた。 それにクスッとあたしは笑って、さらに彼の手をぎゅっと握る。 飯島くんはよく分からない、と言わんばかりの表情をしながらも、それでもあたしの手をぎゅっと握り替えしてきてくれた。 投げかけたら帰ってくる感情。 それが同じ愛情。 ありふれているように感じるけど、もしかして本当はそうそうない奇跡なんじゃないかって、飯島くんと知り合って初めて思った。
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