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「あ、これ出そう」
「えっ、どれですか?」
「これこれ、ここのヤツ」
飯島くんが指さした英単語に丸付けながら、ふと飯島くんの手に目をやった。
骨張った手。
男の人の手だ。
目の前にあるから思わずぎゅっとその手を握った。
「……なに」
飯島くんが英単語から顔をあげて、あたしを凝視する。
あたしの手をふりほどいて離れていかないことが嬉しい。
「繋いでいて下さい」
「はい?」
「電車が終わるまで。
前に繋いでくれていたことあったし」
「……」
飯島くんがあたしの言葉に不思議そうに首を傾げた。
それにクスッとあたしは笑って、さらに彼の手をぎゅっと握る。
飯島くんはよく分からない、と言わんばかりの表情をしながらも、それでもあたしの手をぎゅっと握り替えしてきてくれた。
投げかけたら帰ってくる感情。
それが同じ愛情。
ありふれているように感じるけど、もしかして本当はそうそうない奇跡なんじゃないかって、飯島くんと知り合って初めて思った。
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