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「もしもし?」
『もしもーし、仕事中でした?
なんか出るの遅かったから』
ふわっとした風花特有の話し方が電話口から聞こえた。
電波に乗って、少しだけいつもと違う声色とはいえそこは変化がない。
「んーん、全然。
ちょっと邪魔が入って」
自分で言っていて、自分の声が随分柔らかくなっているのが分かった。
さっきみたいなトゲトゲした気持ちがふっ、と消えて芽生えたのは甘い気持ち。
声は柔らかくなったというのか、甘くなったというのかは定かではない。
『邪魔って、空さんとかですか?』
「うん。酒入って酔ってんの」
『わー、空さんさらに元気になってる気がしますね』
「元気ってか、うざくなってる。いつもの数倍」
アハハ、と心地の良い笑い声を聞きながら階段を下りる。
ギシギシと音がするこの場はいやに静かだ。
「で?どうかしたの?」
『――え、あ……どうかしたって、訳でもないんですけど……』
「ん?」
『あー…、なんか、声聞きたいなー…って……』
ヘヘ、とはにかんだ笑いがその後に続いた。
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