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「夜更けの采女ヶ原。折からズァーと篠つく雨。無地の傘を持った定吉。雨音のせいで後ろから浪人が近づいている事がわかりません。浪人のほうもなかなか斬りかかれない。ふと定吉が小便をしに小脇へ。用を済ませたところへ箒の槍で脇腹をブスリ!とどめと布を巻いていた鯵切り包丁を取り出して喉元をブツリ!その瞬間定吉の懐からバッと黒い影が飛び出したっ……」
雨の師匠は得意の雨噺をやっている。『猫定』だ。
こらしめられていたいたずら黒猫が博打打ちの定吉に拾われる。女房に浮気され、邪魔だからとその相手に消されてしまうシーンだ。
「あの槍の型、いつ見てもすごいな。お前もよく見ておけよ」
兄弟子の天風兄さんが言った。
「はい」
でも大丈夫。ちゃんと見てますから。
「これはこれは主人の仇を討った忠義な猫だ、と御上から25両出て両国回向院に猫塚を立てた。猫塚の由来の一席でございました」
そう満足に語って師匠はお辞儀をした。
パチパチと拍手を浴びる。
すごいな、僕もいつかこんな拍手を浴びてみたい。
たかが前座じゃ、まばらな拍手しかお客はくれないからだ。
「師匠、お疲れさまです。」
「うむうむ」
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