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「晴…いや、たけ若。お前が演りたがっていた『野晒し』を教えてやる。」
そういって、墓の前に座布団を敷いて座った。
「この噺はな、釣り中にはしゃぐところが大切だが、ただがむしゃらに気楽にやっちゃいけない。少しだけ冷静さを持って取り組むんだ…コホン。
……どうした八っつぁん、偉くご立腹じゃないか朝からどうした。─ご立腹もなんもあるか。ご隠居、黙ってここに一両のせろ」
俺は『野晒し』の稽古を始めた。
誰もいない墓場にただただ野晒しのリズムが響く。
「年はとっても浮気は止まぬ止まぬはずだよ先が無い…今はただ小便をする道具なり…なんて都々逸や川柳があるけどよく言ったもんだね~」
「鐘がぼんと鳴りゃさ~上げ潮、南さ~」
「あたし向島から来たのよろしくて?─待ってたんだ入ってくんねい」
俺は野晒しを続けた。墓石はいつの間にか晴坊が座っている姿に見えてきた。
なぁ晴よ、なんで俺は今ここで妙な弔いをしなくちゃならなくなったんだろうな、ごめんな、ダメで弱い兄さんで…。
なんだかよくわかんなくなって来た。それでも俺は稽古を続けた。あ、そろそろ終わりだ。
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