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「おい、お前歌道に暗いな!──あぁ、角が暗いから提灯借りに来た」
『道灌』というやっぱり雨の出てくる噺を喋りべり終わり、ぺこりと頭を下げて、昨日より少し多く拍手をもらった。
座布団を返し、次の演者のめくりをぱらり。
仲入りは無く、ぼくの高座名から《馬鈴生京陽》と換わる。思わず誇りに思う。少しの手応えを感じながら裏へ引っ込んだ。
「うまくなったじゃねぇかよしよし」
「あ、ありがとうございます」
「空間がわかりやすくなっているよ。だがな、隠居の話し方をお前なりに工夫すりゃのめり込みやすくなるよ。じゃ行ってくるよ」
「はい。勉強させてもらいます」
出囃子の中、師匠は小さい歩幅で高座へ向かう。
やっぱり拍手の量が違う。
「ちょいとごめんよ」
と前座の兄弟子、傘兵兄さんがぼくの前に座る。
骸骨みたく頬骨が出た、背の高い痩せた先輩だ。
「兄さんずるい」
「特等席は俺んだ」
「待て待て『笠碁』だ。俺も聴く」
二つ目の天風兄さんが割り込む。天風兄さんは元角力志望というほど身体がでかく、まるまる太っている。当然、師匠の高座の様子は見えなくなった。
「ずるいよ」
傘兵兄さんと同時だった。
「あ、俺は立てば見られる」
背も低く、身体も小さいぼくは結局諦めた。
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